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写真集│

川崎

未成の周辺

 

バスの車窓から見えてくる移動の距離。新宮という空間が持つ時間。 ここに束ねられた写真たちはページが捲られることを待機している。 カメラが撮りたがる写真の型や、 熊野にまつわるありふれたイメージを払いのけ、 生のままの風景が時制を豊かに行き来する。 川崎祐の写真は持続しているのだ。(帯文より)

――鈴木理策(写真家)

 

川崎祐は、家庭内写真と地方・郊外をテーマに制作を続ける写真家です。前作『光景』(赤々舎、2019年)は、地方における家族の姿と、それを取り巻く地元の風景を「家族写真」「地方写真」等の既存の文脈から逸脱させ、新たな解釈のもとにその枠組み自体を批判的に捉えなおした作品でした。そして今回、喫水線より刊行する『未成の周辺』は前作からおよそ3年ぶりとなる川崎の新作写真集です。

 

和歌山県新宮市に取材した『未成の周辺』は、「聖地」として知られる熊野の風景の脱構築と、「風景写真」の成立条件を問う意欲的な作品です。写真集では、両開きの構成が体現するループ構造によって「未成」のコンセプトをあらわし、2つの方法(パート)から「風景」へのアプローチを試みています。

 

ひとつは、「聖地」としての熊野の虚飾性を排した、郊外的な地方の風景が連続するパートです。風景の郊外化が進む今日の日本において、川崎が熊野において見出した「ありきたりな風景」は、いわば私たちの多くが囚われ、私たちに内在している「風景」の再提示であるとも言えます。本作所収の寄稿文「空虚と聖性」で詩人の倉石信乃が書くように、本パートに収められた写真群は、川崎が前作から引き継いだ問題意識を反映させたものであり、その問いかけは「地方それ自体の凋落と被差別化の進行する現在であってみれば、重要性を増して」いると言えるでしょう。

 

もうひとつは、路面バスの車窓から熊野の風景を撮影した「風景写真」をまとめたパートです。新宮から大和八木までのおよそ6時間半に及ぶ道中に撮影された写真は、端に窓枠が入ったり、揺れによってぶれたり、水面と窓枠が奇妙なグラデーションを構成していたりと収差が加わっています。それにより写真は、「風景写真」として一見失敗しているように見える一方、ある種の美しさを携えた「写真」として成立しています。このパートにおいて川崎は、過剰なまでにカメラの機械性に身を委ねた撮影を繰り返すことで、「風景」あるいは「風景写真」の成立条件を確かめようとしていると言えます。

 

なお、写真集中央には作家本人によるテキスト「風景の貌をめぐって」に加え、先述した詩人の倉石信乃による寄稿「空虚と聖性」が収録。帯文は本作の重要な舞台である和歌山県新宮市を出身地とする写真家の鈴木理策によるものです。

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寄稿:倉石信乃、川崎祐 

協力:鈴木理策、篠田優

装丁:岡田和奈佳

校閲:宇田川賢人

レタッチ:株式会社 Sun-Prism

印刷・製本:

日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社

プリンティングディレクション:渡辺穣

​進行:吉田真治

発行:喫水線

定価:7,700円(税込)

発行部数:400部限定

発行日:2023年9月1日

仕様:270mm×210mm、

ソフトカバー、並製本 156ページ

ISBN 978-4-9912632-1-7 C0072

 

 

プロフィール:

川崎祐 [かわさき・ゆう]

写真家。1985年、滋賀県生まれ。2017年、第17回写真「1_WALL」グランプリを受賞。2018年、ガーディアン・ガーデンで個展「Scenes」を開催。同作で第44回木村伊兵衛写真賞最終候補にノミネートされる。2019年に『光景』を赤々舎より刊行し、同時期に個展「光景」をニコンサロンで行う。2022年に3年ぶりの新作「未成の周辺」(Alt_Medium)を発表。2024年には「あざみ野フォト・アニュアル2024 川崎祐(仮)」展を横浜市民ギャラリーあざみ野で開催予定。そのほか、「文學界」「週刊読書人」等にエッセイや書評を寄稿。

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